2017年2月28日火曜日

2/20都心再開発巡検(卒業生巡検)

ご無沙汰しておりました、4年生のうえ(元幹事長)です。

地理学研究会では毎年2月・3月に4年生が「卒業生巡検」として巡検をしています。
今年は、2017/2/20に、3月に卒業する4年生5人で都心再開発を巡る巡検を開催しました。
20人の後輩たちが巡検に参加してくれました。(長い巡検についてきてくれてありがとう)

今回は、バブル経済が崩壊して、東京都心の地価が下落した後に、どのような再開発が行われて、バブル崩壊が地域にどのような影響を与えているのかを解説してきました。

この記事では、巡検スポット一つ一つの解説ではなく、巡検全体を通してどのようなことがわかるかを解説しながら、巡検の写真をあげていきたいと思います。


ルートは以下の通りです↓
《午前の部》豊洲駅→豊洲→(バス)→築地市場(昼食)
《午後の部》汐留駅→シオサイト→環状二号→虎ノ門ヒルズ→愛宕神社→神谷町→麻布台再開発準備地区→アークヒルズ→(地下鉄南北線)→麻布十番商店街→六本木ヒルズ→ミッドタウン→都営青山一丁目南アパート→神宮外苑→都営青山北町アパート→表参道ヒルズ→キャットストリート[ウラハラ]→東郷神社


テーマ:バブル崩壊による都心再開発・都心回帰が地域にどのような影響を与えて、どのような現状・問題点がみられるのか

《高度経済成長・バブル経済》
バブル経済で都心の地価は高騰して、都心は「住む」場所ではなくなり、宅地・企業は郊外化しました
  • 都市の膨張、地価の高い都心、宅地・企業の郊外化
  • 政府系機関は地価抑制策

《バブル崩壊》
バブル崩壊によって、地価が大きく下落しました。
  • 地価の下落→都心の再開発・人口の都心回帰、企業の土地(不動産)放出
  • 安い労働力を求めて工場が海外・地方へ(産業空洞化)
  • 理論的には都市化・郊外化を経て、再都市化のフェーズへ
  • 効率化を求めて規制緩和・民間活用
バブルが崩壊し、都心の地価が下落したことで、再開発するために手を付けやすい環境になりました。
また、うなぎ登りに地価が高騰していた土地を持っていた企業が、その土地を手放しました。工業用地も産業の空洞化に伴い放出されました。
さらに、地価の下落によって、都心が人の住める環境にもなりました。
このような背景から、都市空間をより高度に利用し、強度を高めるための再開発が、バブル崩壊後に多く行われることになります。

《都心の再開発》
【開発された場所】
今回巡検でまわった再開発地の開発された場所の特徴が以下の4点です。

①都心に近いのに地価が安い場所
  • レントギャップ:災害危険(木造密集)地域
都心周辺部には、「レントギャップ」と言われる本来の価値よりも賃貸料・地価が安くなっている地域があるとされ、その地域は東京ではインナーシティと呼ばれるような木造住宅が密集した災害危険地域になっています。
六本木ヒルズ・アークヒルズ・麻布台再開発準備地区というように、そのような場所が多く再開発されるか、現在再開発中です。
現在、森ビルによって地上げが進められている麻布台再開発準備地区
現在、森ビルによって地上げが進められている麻布台再開発準備地区
六本木ヒルズの横にある、再開発前から残る階段(を登る地理研)
  • ウォーターフロント
ウォーターフロントは「都市の中の臨海部」を指す言葉です。
ウォーターフロント地域は工業地帯でしたが、多くの先進国で「都心に近くて比較的安い地域」として再開発がされています。
ウォーターフロント開発としては、横浜のみなとみらい地区、ロンドンのドックランズが有名です。
IHI造船所が再開発された豊洲のドッグ跡

②まとまった土地

  • 工業用地の再開発 :汐留・豊洲
再開発で大きな建物を建てるには、大きな土地を再開発するのが手っ取り早いです。
そんな大きな土地の一つが、工業用地です。東京では、特に低地・埋立地でよく見られます。
汐留は貨物駅とそれに付随した物流倉庫、豊洲は造船所が再開発されました。
貨物駅跡地が再開発されたシオサイト
にて巡検午後の部を始める地理研
  • 大名屋敷,軍用地を引き継ぐ土地 :ミッドタウン・神谷町
大きな土地の由来の二つ目が、大名屋敷です。武蔵野台地の大規模再開発の多くはこれです。
六本木ヒルズには大名屋敷の毛利庭園が残っていました。
六本木ヒルズで毛利庭園を見下ろす地理研

③老朽化した公共施設/福祉住宅の再開発
今回の巡検では、都営豊洲アパート・都営南青山一丁目アパート・都営青山北町アパート・同潤会アパートで、老朽化した公営住宅の再開発の過程がみられました。
現在老朽化する初期の都営住宅、都営住宅の取り壊しの様子、再開発された後の都営住宅…
都営青山北町アパート
初期に建築されたため、当初は風呂がついておらず
ユニットバスがベランダに後付けされている

④ネットワーク整備のための道路の整備
都市は中心から郊外へ発展し、都市と都市を結ぶ道路が整備されてきたため、都市を囲む環状道路の整備は遅れがちです。
特に日本は西洋と異なり、城壁が存在しなかったため、なおのことでした。
このため、環状道路の整備が進められています。今回の巡検の環状二号もそうですし、環状四号・外環道・圏央道も建設中です。
環状二号線

【開発手法と特徴】
バブル崩壊後の都心再開発のために、再開発をしやすくする法整備が行われました。
その多くは民間企業が利益の得やすい環境整備でした。
  • 複合開発
従来のオフィスビルは業務機能のみを収容するいわば「箱もの」でありました。
近年では、土日祝日も含めた来街者を増やすために商業・宿泊あるいは居住機能を組み合わせた複合開発が増えています。
アークヒルズ・六本木ヒルズ・ミッドタウン・虎ノ門ヒルズでは、商業施設・会議場・ホテル・住居・オフィスなど様々な施設が一か所に集まる様子が見れました。
ミッドタウン
  • 空中権売買と大型開発のための法整備(容積率緩和)
①連担建築物設計制度
既存の建築物の未利用容積率を隣接地へと移転できる制度です。愛宕グリーンヒルズがこの例でした。
②特例容積率適用地区
許容される容積率の一部を区域内の別の建物に加算できる制度です。街区を超えて既存の建築物の未利用容積率を開発予定地へと移転できます。シオサイト(汐留)の再開発でこれが使われています。
③総合設計制度
公開空地と呼ばれる、誰でも利用できる空地を敷地内に作ることで容積率が緩和される(より高い建物を作ることができる)制度です。

 今回の巡検ではたくさんの公開空地が見られました。
六本木ヒルズの公開空地の説明板
  • 地上げ から 市街地再開発事業 へ
①市街地再開発事業
敷地を共同化し、高度利用することにより、公共施設用地を生み出すための事業ですバブル期には、民間企業は地上げをして大きなビルを建てることが多かったですが、森ビルが民間で初めて市街地再開発事業を行い、複合施設を竣工したことから、民間も含めた市街地再開発事業が多く行われています。
②等価交換方式・権利変換制度

再開発前の住民や商店主、借地権者などが再開発後の建築物に権利を有する制度です。
・従前の権利者の権利は、原則として等価で新しい再開発ビルの床に置き換えられる(権利床)
・高度利用で新たに生み出された床(保留床)を処分し事業費に充てる
しかしながら、地域住民や中小企業にとって不利な法律です。

環状二号・アークヒルズ・六本木ヒルズでこの制度が使われました。
③特定建築者制度
行政や地主しか市街地再開発組合を作り、市街地再開発事業を行えなかったものが、
この制度により、民間企業に委託することが可能になりました。
日本で初めての民間による市街地再開発事業であるアークヒルズ

  • 大きなイベントを契機とした開発
これまで、関東大震災復興・戦災復興・東京オリンピックという大きなイベントを契機に、道路が整備されたり、同潤会アパート・神宮外苑というような住宅・文化施設が整備されてきました。
明治天皇を称えるために整備された神宮外苑
現在では2020年の東京オリンピックを目指して、道路整備や都営住宅の再開発が行われています。

大型施設の新築件数は減少傾向にあるものの、以上のような制度整備によって、一つ建物の大きさは巨大化傾向にあります。

【周辺地域への影響】
再開発事業により、周辺の大きな商環境の変化が見られます。
麻布十番商店街では、地下鉄・六本木ヒルズ開業により観光客が増加し、それに対応した商店街の変化が見られます。
周辺住民の変化や観光客の増加により変化してきた麻布十番商店街

都営南青山一丁目アパートでは、高級マンション建設により、周辺の商店が高級化し、フードデザート問題が発生。野菜などの移動販売が見られました。
都営団地の移動販売
豊洲でも、造船所時代から存在する都営団地の一階にある商店街がシャッター商店街になっていました。
都営豊洲アパートの商店街
活気がなくなっているのがわかる

【バブル崩壊の影響を受けた地域、都心回帰の現象】
  • 都心志向の単身層に住処を提供する中古マンション
ミッドタウンは、スーパーが出店していることが、森ビル等の開発と大きく異なる点になっています。
そのミッドタウンのスーパー「プレッセ」は、ミッドタウン内に住む高所得者だけでなく、周辺地域の人口を踏まえた幅広い需要に応える品ぞろえをしています。
  • 裏通りの立地創造
バブル期の地価高騰により、裏路地にアパレルショップが追いやられ、それがバブル崩壊後の地価の安さにより発展してきたのが裏原宿(「ウラハラ」)です。
ウラハラ。SPA方式のアパレルショップが立地する。

【問題点】
  • 公共教育施設の不足
今回の巡検の豊洲地域のテーマの一つが「保育園・小学校の不足」でした。タワーマンション開発によりそれまで減少傾向にあった児童数が急激に増加しました。その結果、小学校の不足を理由に「タワーマンション規制条例」が施行され、土地を持っていたIHIが江東区に小学校用地を寄付するという事態が起こりました。
タワーマンションには一戸あたり数百万円の「小学校建築のための負担金」が課せられましたが、このような公共施設を受益者負担とするか、否かも大きな問題の一つです。
豊洲地域は分譲マンションが多くあり、児童数がすぐに少なくなると見込まれ、
これまでは保育園が立地しづらい環境でしたが、
賃貸マンションの増加等に伴い、認可保育園が駅前にできました。
保育園児を移動させることで豊洲地域での保育園不足を解消しようとする動きもあります。
IHIが土地を寄付して作られた豊洲北小学校
小学校に関しても、2007年に豊洲北小が、
2015年には豊洲西小がかつての受け入れ困難校であった豊洲小から分校されています。
  • 再開発されたマンションに庶民は住めない(ジェントリフィケーション)
森ビルの再開発によって、多くの住民は再開発されたマンションには住めなくなってしまいました。固定資産税増加や高い管理費によってです。都市全体としては再開発がプラスに捉えられますが、一方でその現場の住民の人にどう配慮していくか、問われるべき点です。
  • 1つの地域に生まれる所得差(ジェントリフィケーション)
1つの地域内で大きな所得差(公営住宅から数千万円のタワーマンションまで)が生じることで、周辺の商業が高級化したり、教育現場で摩擦が生じたりなどの問題が起きています。
  • 企業理念による都市開発
企業による再開発・都市開発は、時にその効率性からメリットが得られる一方で、その"企業の"理念・利益追求が都市に反映されることになります。
森トラストによって作られた
「森ビルの敷地を通らず、森トラストの施設へ抜ける抜け道」
と言われる階段
  • 特定の社会階層のみが集住する排他的な空間の出現=建造環境(D.Harvey)
再開発されたマンションなど、セキュリティのためにゲートで囲われ、周辺地域と隔絶された空間になっています。
安全のために必要でありいい事であると捉えるのか、地域コミュニティを分断するものであると捉えるか…
  • 歴史的な建物・景観をどう残すか
同潤会アパートは、関東大震災後に当時の先進的なデザイン・工夫・建築・システムを取り入れた住宅でした。
残る同潤会アパートはわずかとなったなかで、表参道ヒルズ建設のために表参道同潤会アパートは取り壊されました。表参道ヒルズには一部に同潤会アパートの建築物が残されています。
そのような文化的に貴重な建築物と再開発をどう融和させていくか、今後の課題です。
同潤会アパートが一部に残されている表参道ヒルズ
  • 公共施設・福祉住宅の再開発
2020年に向けて老朽化した公営住宅が再開発されつつあります。
公営住宅が新しくなり、高層化した分で民間を活用して財源とすることもでき、いい事であるとも捉えられる一方で、入居倍率が30倍を超える公営住宅を戸数現状維持のままに民間へ余剰の土地を貸し出し利益を得ようとするのはいかがなものかと捉えることもできます。
取り壊し中の都営豊洲団地
旧住民の追い出し/フードデザート/福祉住宅の再開発…こうした問題点をすべて総じて「誰のための開発なのか?」という視点も持って都心の再開発を見ていくとより「都市」というものに深みが出てきます。

《自然地理》
【地形】
埋め立て地
明治以降(特に関東大震災の瓦礫処理のため)に埋立地が造成されました。
この埋立地は東京の重工業をけん引する工場用地となり、現在の豊洲となっています。

沖積低地
江戸の沖積低地は町人・商人地であり、密集した市街地が形成されてきました。
武蔵野台地上の再開発に対して、環状二号の整備など再開発の雰囲気や手法も少し違ったものになります。

沖積地と台地のはざまの崖線
愛宕神社の出世の階段はまさに、武蔵野台地と沖積低地の境界の崖線の急な階段です。
崖線である愛宕神社の出世の階段
台地
武蔵野台地には多くの大名屋敷が立ち並んでいました。
その大名屋敷の土地は再開発され高層複合施設となっています。
 
台地を刻む谷
台地を刻む小さな谷地には、下級武士が住んでいたりしました。
麻布台再開発準備地区がその例で、台地上の再開発が一通り終わり、そのような土地の再開発が進んでいます。 
ウラハラは渋谷川の谷地であり、川沿いのじめじめした土地で地価が安いからこそ、新進気鋭のアパレルショップが集積しました。
ウラハラのキャットストリートは渋谷川の暗渠
重量制限の交通標識がみられる
大名は台地上に屋敷を持ちがちですが、大大名になると台地上から谷までの広大な土地を所有し、台地上で快適な暮らしをし、谷の湧水を利用して庭園を造っていました。

【気候】

  • 高層建築物による都市気候への影響
シオサイトの高層建築物群によって、海風が遮られ、ヒートアイランド現象が助長されているとの指摘があります。
  • 強いビル風

《小話》
  • 豊洲にあるセブンイレブンはセブンイレブン一号店…24時間3交代制の造船所の需要に対応した新業態として出店
豊洲のセブンイレブン一号店
  • 住宅地を地道にコツコツと再開発していく森ビル(兄)と、大きな土地を一気に再開発する森トラスト(弟)の差
  • 六本木ヒルズとミッドタウンの再開発の経緯の差とコンセプトの差
  • ウラハラのSPA…普通の小売店は小売りだけをするものであるが、ウラハラのアパレルショップは商品の企画から製造・販売まで自店舗で手掛ける。このような生産方式はSPAと呼ばれる。大手企業であれば企画・生産・配送・販売まですべての工程を包括するユニクロもその一つである。